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73. 詩「鳩よ」

   「鳩よ」

 三〇羽ほどの鳩の群れが
 秋の雲を背にして輪を描いている 
 右旋回から 突然左旋回へと
 だだっ広い関東平野の
 野原の一軒家の上空で
 観覧自由のマスゲームを
 鮮やかに繰り広げている
 あれは多分レース鳩か

 鳩よ
 戦国の世では伝書鳩となり
 血生臭い文書も運んだのだろう
 足や背中に括りつけられた
 文字の重さを知る由もなく
 ひたすらに目的地へと羽ばたいた
 たまには恋文なども運んだろうか
 ―御目文字致したく候―
 などと書かれた文を固く結ばれて
 足首が熱くなったことなども

 新聞社のデスクには
 事件現場写真のフィルムを届け
 病院の窓口には緊急の血清を…
 その明晰な脳に畳み込まれた
 壮大な地図を眼下に広げ       
 小さな影を水や大地に落とし      
 稲穂の煌めく波に励まされて    
 一直線に彼の地を目指した鳩たち

 携帯電話や電子機器がやたらと
 電磁波をまき散らすこの乱世
 戻りたいのに戻れないまま
 駅や公園に群れる鳩の群れよ 
 思い出してほしい
 あまた鳥類から選び抜かれた誇りを
 思い出してほしい
 その便りを待ち続けていた人々を
 思い出してほしい
 逆風に向かう肩羽の心地よい痺れを
 思い出してほしい
 ひたすら目指すしかなかった情熱を

 いまフワリと歩道に舞い降りた鳩よ
 おまえの類まれなる帰巣本能を
 キリッと蘇らせる手立てはあるのか?
 その尊い能力と使命に目覚めたならば
 鋼のような足首が耐えられないほど
 熱くなる そんな手紙を 
 どこぞの誰かに届けてほしいのだ
 
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