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 ニャンと気ままに…♪   

🐱🌸日常生活の雑感と他愛のない詩など小作品を紹介します        コメントもお寄せ下さいね。      

2.メルヘン「カタログショップ」


『カタログあります。カタログの店 愛屋』
おしゃれな雰囲気の小さなお店の看板が目にとまりました。看板もさわやかなイエローカラ―です。 (カタログあります? カタログを売っているっていうの? カタログハウスっていう雑誌は聞いたことあるけど…)。
少し興味をおぼえて、お店の中にはいっていきました。先客がひとり、40才くらいの小太りのおばさんがレジの前にたっています。
「じゃあ、この花柄のスーツとシャルルのバッグで2650円ね」(スーツとシャルルのバッグで2650円か…安い店なんだ)
 店内を見わたすと、棚の上に色とりどりのカタログらしいものが並べてあります。洋服、バッグ、アクセサリー、おもちゃ、家具、ペットコーナーまであります。

「いらっしゃいませ。お客様は初めてのご来店でいらっしゃいますね?」店員らしいお兄さんがニコニコと声をかけてきました。
「あっ、はい。ええと…カタログを売っているんですか?」こんな質問をしていいものかどうか迷いながら聞いてみました。
「そうですよ。最近は世のなかなんでも便利になりましてね。大きな荷物をエッチラオッチラと持ち運ぶ時代は終りました。欲しいものがあればカタログを買うだけで、なんだって現物が手に入るんですから」言っていることがよくわかりません。
「カタログを買うだけで…ですか?」 「そうです。たとえばですね…これ」と言って、アクセサリーコーナーの棚から指輪のカタログをとりました。
「どれかお好みの指輪がありましたら、初ご来店記念にプレゼントいたしますので、ひとつお選びください」そう言って私の目のまえにカタログをさしだしました。ままごと遊びじゃあるまいし、絵に描いた指輪なんてと思いましたがとりあえず水色のアクアマリンの石がついている銀の指輪を指さしました。
「じゃあ、これ…」 「はい分かりました。お客様の指のサイズは…9号位ですね」そういうと店員はカタログから指輪の絵をシールのようにはがして、近くにあった電子レンジのなかにそれを置きました。
「サイズは9号、小さめだから1分30秒…と」。ダイアルを合わせてスイッチを入れました。かすかに電子音が聞こえます。なんだかからかわれているような気がして、店を出ようかと思った瞬間…チン!と音がしました。

「はーい、おまちどうさま」
お兄さんがレンジのふたをあけました。するとターンテーブルのまん中に、カタログの絵とおんなじ指輪がチョコンとのっているではありませんか。
「きれいでしょう。あなたの指にぴったりですよ、ほら」そういって、あぜんとしている私の薬指にすっと指輪をはめました。
たしかに、ほっそりとした自慢の指に、透きとおったマリンブルーの石とシルバーの輝きがとても良く似合っています。
「こ・これって…本物?」 「そうですよ。当店だけの本物の本物です。このように店内のカタログにあるすべての商品が、電子レンジでチンするだけで本物に変わるんです。といっても家具のように大きな品物は入りませんから、レンジから取り出した瞬間に大きく膨らむ仕組みになっております、はい」といかにも得意げにニッコリとしました。
「ペットコーナーって、生きているペットなんですか?」まさかと思いながら聞きました。 「もちろん。ペットは人気がありますからあいにく小型の動物しか残っておりませんが、猫、ハムスター、犬はシーズー、ポメラ・・・」それそれ、シーズー犬を飼ってみたかったとまだ信じられないけども心の中でおもわず拍手をしてしまいました。

「ではシーズー犬を一匹、1360円です。お取り扱いには十分気を付けてくださいね」犬の絵は、花柄の小袋に入れられました。(ええ、落したり無くしたりするもんですか)そう思いながら店をでました。

ビックリしましたよ本当に。こんな便利な買い物ができるなんて、どうして今まで知らなかったのか。 電子レンジでチンして、扉を開けた時の驚いたことといったら・・・いきなりレンジの中から「ワンワン」って、シーズー犬が飛びだしてきたんだから。シッポもふって走り回る正真正銘本物の犬だったんだから。

きょうは朝から暑い! 暑いだけじゃなくてムシムシととして不快指数100%。人間も犬も猫も・・・そう我が家のチンも、今日ばかりは舌をだしてハアハアと床にへたりこんでいる。「チン」って名前を呼ぶと、いつだってキラキラした目をしてとびついてくるのに、今日はいくら呼んでも立ちあがる気配さえみせない。
(こんな日には行水に限るわね。プールに水をはって…きっと喜ぶだろうな) さっそく物置からビニールプールを引っ張り出して庭に広げると、ホースで水をなみなみと溢れるまで入れました。
「私も一緒に入るからね。チン、ほら冷たくて気持ちいいでしょう」 チンは、生れてはじめての水の感触にびっくりしてはねました。バシャバシャ バシャバシャ・・・でも水になれると嬉しそうに水にもぐったり跳ねたりをくりかえしました。

しばらくすると水の音が静かになりました。気がつくとチンの姿がありません。
「チン チン どこにいるの?」 プールから飛びだした様子もないけどと思いながら、あたりを見まわしました。でもチンはいません。(家の中に帰ったのかな?)。急いで庭から部屋に上がってみましたが、やっぱりいません。白いカーテンが風に揺れているだけでした。

ふと気がつくと、足元に可愛らしい袋が落ちています。カタログの店でチンを買った時、お兄さんが犬の絵をいれてくれたあの花模様の小袋です。拾い上げてみると、中には一枚の白い紙が・・・説明書かな? そういえばまだ読んでいないことに気がつきました。 いそいで広げてみると、そこには大きな文字が書かれています。
  
    注意・水気厳禁!
    カタログは紙製ですので、絶対に水につけないでください。
    水に濡らすと溶けてなくなります。

そういえば、アクアマリンの指輪も、いつのまにか無くしたと思っていたけど・・・


 ※このメルヘンは2001年に「詩とメルヘン」誌10月号(サンリオ社発行)に掲載されたものです。
 編集者のやなせたかしさんが選評で「文章も歯切れがいいし、ナンセンスでいてどこかニヒリ
スティックな幕ギレもいい。秀作と思う」と評してくださいました。  
 
 詩とメルヘン
絵は後藤貴志氏の作品です。
カタログショップ P1

カタログショップP2

    
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